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音楽詩劇研究所がアルメニア、トルコ、ウクライナ、ロシア、ブリヤートなど各地で行ってきたコラボレーションは、ユーラシアの精神に声や体の可能性を訊ねる旅でした。その旅の途上で出会い、共演を重ねてきた4名の歌手を東京に招き、日本のアーティストと共に〈ユーラシアンオペラ〉の上演やコンサートを行います。2018年、ユーラシアの現在を生きる精霊たちの声とともに、孤独な世界に生のエネルギーを授ける現代の神謡集が織りあげられます。

サーデット・テュルキョズ

ヴォーカル(トルコ)

サインホ・ナムチラク

ヴォーカル、美術家、書家(トゥバ共和国)

 即興ヴォーカリスト。東トルキスタン(ウイグル自治区)から政治難民としてイスタンブールに辿り着いたカザフ系の両親の下に生まれ、幼い頃に同地のカザフ・コミュニティーの長老たちから学んだ中央アジアの語り物と、日常聞こえてくるコーランの響きと自由な節回しが、後のスタイルの原点となる。20歳でスイスのチューリッヒに移り住み、フリージャズや即興音楽に出会い、それが自身の音楽的ルーツに塗り重なって、今の独特のスタイルに至る。

 現在、チューリッヒを拠点に、世界各地の即興ミュージシャンと刺激的なコラボレーションを展開する。代表的な共演者に Elliot Sharp(ギター、サックス/米国)、 Fred Frith(マルチ/米国)、Nils Wogram(トロンボーン/独)、Koch-Schuetz-Studer Trio(スイス)、日本の音楽家では、琴の八木美知依、ヴォイス・パフォーマンスの巻上公一など。

 2010年には国際交流基金主催日本トルコ現代音楽制作「Sound Migration」に参加。2017年の音楽詩劇研究所「黒海プロジェクト」において、イスタンブールでの全公演に参加した。

 喉歌、実験的なジャズ、古典、電子音楽、仏教的な思想を組み合わせて表現することのできる、世界的にも類稀なヴォーカリストとして知られている。ロシア連邦トゥバ共和国の中でもモンゴルとの国境近く、南シベリアに位置する小さな村で生まれた彼女の初めての音楽的なインスピレーションは、南シベリアからモンゴルまで続く無限の砂漠と草原(ステップ)の遊牧の民だった祖母が歌う子守唄からもたらされたものだった。

 感じるままに歌う社会(幸せなときも、悲しいときにも)の中で成長していった彼女は、モスクワのグネーシン音楽院で声楽を専攻し、同時にトゥバやモンゴルに特有の喉歌による倍音唱法やソビエト時代に長らく禁じられてきたシベリアのラマ教、シャーマニスティックな伝統をも学ぶ。その後、トゥバ共和国の国立民族音楽団の歌手としてキャリアをスタートし、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダを回るツアーをおこなう。1988年には、民族的要素と現代的な要素を組みわせたスタイルをつくり出そうと試みるソビエト連邦のジャズアンサンブルTri-Oの主要メンバーとして西洋のメディアから注目を集め、その表現は驚きをもって迎えられた。また、ヨーロッパの音楽家とも積極的にコラボレートしており、1993年にヨーロッパのレーベルから『Out of Tuva』を発表し世界の音楽シーンに衝撃を与えた。

 美術家、書家でもあり、民族の叙事詩を用い、声の表現やエレクトロニクス、ライブペインティングを融合させた総合的なパフォーマンスを、ウィーンを拠点に世界各地で行っている。7オクターブともいわれる声域と技術、芸術的なリサーチと文化的・宗教的背景に裏打ちされた彼女のパフォーマンスは「過去も、現在の最先端あるいは未開の領域までも、聴かせ、旅させる」と評されている。

© Paul Jacquat

《招聘アーティスト》

マリーヤ・コールニヴァ

ヴォーカル(ロシア)

 歌手、作曲家、ディレクター。イルクーツクに生まれる。秘境的生活で知られる正教古儀式派(セメイスキー)にも出自をもち、国立民族劇団を主宰する両親の元で育つ。幼少の頃から音楽、演劇、民族芸能に慣れ親しみ、両親の劇団公演で訪れる民俗博物館で、シベリアの広大な草原に暮らすさまざまな民族の芸能の声を聞きながら育つ。

 ロシア語や文学への関心をたかめ、とりわけ革命前の「銀の時代」の詩人に強く関心をいだき、それらを元に歌曲の作曲を続ける。イルクーツク州立大学で哲学とジャーナリズムを専攻し、ジュリア・クリステヴァ、ウンベルト・エーコ、ホルヘ・ルイス・ボルヘスなどを研究し、哲学、思想、言語への関心を自らの音楽に還元するため、合唱や作曲を専門とするフレデリック・ショパン記念イルクーツク音楽学校で学ぶ。

 イルクーツク州交響楽団でソリストとして活動するほか、女優、歌手としてドラマシアターで活動。東洋の身体技法を習得しながら、様々な音楽、演劇のプロジェクトに参加し、ジャズ、アヴァンギャルド、即興、電子音楽、民族音楽を演奏。自身で作曲も行い、実験映像とのコラボレーション作品を多数残している。

 2017年の音楽詩劇研究所「バイカルプロジェクト」にゲストソリストとして招かれ、ブリヤート共和国での国際音楽祭 Voice of Nomads、イルクーツク現代美術館での公演に参加した。

アーニャ・チャイコフスカヤ

ヴォーカル(ウクライナ)

 ウクライナ出身の歌手。幼少の頃をサハリン島で過ごし、ウクライナ、ロシア両国の伝統文化を継承している。 2004年にウクライナのドネツク音楽院卒業後、数々のウクライナの主要な音楽家とともに活動。ジャズを中心に、ウクライナの伝統歌唱法も用いるその声に「ウクライナの真珠」との称号が与えられた。数多くのロック、ジャズバンドに参加し、ウクライナのカルトロックバンドとして知られる Okean Elzy でもヴォーカリスをつとめた。

 2009年には、ジョージアの詩人・作曲家 Irina Kudrjashovoj と共同作業を続け、アルバム『OljnDvir』をリリース。ウクライナの民謡、神話などのフォルクローレを題材にセカンドアルバムを制作。

 ロシアのサンクトペテルブルクに拠点を移した後は、ウクライナ古謡を研究し、紀元前にも遡るウクライナ地方の古謡や民謡をマスターした。同時に正教聖歌と西洋古典声楽への理解を深め、アンドレイ・コンダコフ、ウラジーミル・ヴォルコフ、ヴャチェスラフ・ガイヴォロンスキーらロシアの前衛音楽家との出会いにより、即興的・演劇的なパフォーマンスを志向し、ウクライナ古謡を即興的に用いながらより自由な演奏スタイルへと移行した。

 音楽詩劇研究所のロシア公演「モスクワミーティング」(2016)で初共演したのち、「黒海プロジェクト」(2017)にゲストソリストとして参加し、Odessa International Theatre Festival に出演した。

© Mikhail Pavlov

ユーラシアンオペラプロジェクト 2018

photo: mikomex

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プロジェクト概要

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